2015年04月06日

スラヴォイ・ジジェク『Don't fail in love with yourselves』

ニューヨークでのコンファレンスの会場となった有名な芸術工科大(クーパー・ユニオン)はみずからを「世界」の<九九%>であると自負する人々が結集した現場(ズコッティー・パーク)とは目と鼻の先に位置している。ジジェクはこの「現場」に駆け付け、結集した<九九%>に向かって、次のようにアジった。この真っ当なアジテーションに――おそらくは事後的に――付された表題は、記憶に残されるべきであろう。

「奴らは僕たちが負け犬だと言ってる。でも、本当の負け犬はウォール街の連中だ。連中は僕たちの金で救われたからだ。連中は僕たちを社会主義者と呼んでいる。でもここにあるのは、金持ちだけの社会主義だけだ。連中は言う。僕たちが私有財産に敬意を払わない、と。でも二〇〇八年の金融崩壊では、ここに集まった僕たちみんながここ数週間で毎日壊したとされる財産を超える、連中が必死に溜め込んだ私有財産が破壊されたじゃないか。連中は僕らが夢想家だと言ってる。でも、本当の夢想家とは、明日が今日と同じように永遠に続くと思っている連中じゃないのか。僕たちは夢想家じゃない。僕たちは悪夢に変わった夢から目覚めたのだ。
僕たちは何も壊していない。僕たちはシステムの自壊を目撃しているにすぎない。みんな、漫画によくある例のシーンを知っているだろ。断崖に突入した猫が、その先に地面がないことを無視して、走り続けるシーンを。見下ろして、地面がないことを知ったときには、すでに落ち始めているという例のシーンを。……僕たちはウォール街の連中に、「おい、下を見ろ!」って言っているんだ。
二〇一一年の四月中旬、中国政府は、現状とは違う本当のこと(リアリティ)やタイム・トラベルを含むすべての物語がテレビや映画そして小説で描かれることを禁止した。これは中国にとって良い徴候だ。なぜって、中国人たちが今とは違うことを夢見ているからこそ、政府がこの夢想を禁止せねばならなかったことを、それは物語っているからだ。だがここでは、禁止は不要だ。なぜって、支配システムが夢を見る僕たちの能力さえ抑圧しているからだ。僕たちが始終見ている映画を見るだけで充分だ。世界の終わりが簡単に想像できる。小惑星などがあらゆる生命を破壊している。でも僕たちは、資本主義の終わりを想像できない。
〔……〕
厄介なことが一つある。それは自分に酔い痴れることだ。僕たちは、いまは盛り上がっている。でも、お祭りは結局ちっぽけに終わることを忘れないで欲しい。問題は、その後だ。僕たちが普通の生活に戻ったとき、そのとき、まだ変化〔への欲望〕は残っているだろうか。分かるだろう。僕は君たちに、「あのとき僕たちは若かったし、とても美しかった」みたいに、在りし日を振り返るようなことをして欲しくないんだ。覚えてて欲しい。僕たちの基本的メッセージが「違ったやり方を考えることができる」だということを。タブーが打ち破られてしまえば、考えられる最良の世界に生きているわけではなくなるんだ。その先には苦難の長い道が続いている。だから、僕たちがぶつかっている本当に難しい問題があるんだ。僕たちは自分が望んでいないことが何かを確実に知っている。でも問題は、僕たちが何を望んでいるかを知らないということだ。どんな社会組織が資本主義に取って代わるのか? どんなタイプの新しい指導者を僕たちは望んでいるのか?
忘れないで欲しい。問題は腐敗や強欲なんかじゃないことを。問題はシステムだ。システムが僕たちに腐敗を強いるんだ。敵だけじゃなく、すでにこの過程を弱めようとして蠢いている偽りの友人たちにも、気をつけよう。……僕たちがここにいるのは、コーラの缶をリサイクルしたり、数ドルを慈善団体に寄付したり、第三世界の飢えた子どもたちに料金の一パーセントを送るためにスタバのカプチーノを買ったりすることで気分が良くなるような、そんな世界にウンザリしているからだ。仕事や拷問を外注したり、結婚紹介所が僕たちの愛に成り代わってたりするような世界の次に、何が来るのか? 政治参加の外注だ。僕たちはそれを取り戻さなくちゃならない。
共産主義が一九九〇年に崩壊したシステムを意味しているなら、僕たちはそうした類いの共産主義者じゃない。忘れないで欲しい。その類いの共産主義者は最も効率的で最も容赦ない資本家だったことを。現代の中国には、アメリカ資本主義よりももっとダイナミックな資本主義がある。でもそれは、民主主義を必要としていない。これは、資本主義を批判することが民主主義を批判することだという脅迫に屈してはならない、ということを意味している。
僕たちは現在、何が可能だと思っているのだろう? ……僕たちは高い水準の生活を望んではいない。僕たちは生きるにあたってよりよい標準を望んでいるんだ。僕たちが共産主義者であるただ一つの意味は、コモンに気配るということだ……。
共産主義は徹底的に失敗した。でも、コモンの問題がそこに残っている。……ただ一つ心配なのは、君たちがいつか家に帰り、年に一度集まって、ビールを呑みながら、「あれは楽しかったね」と、今日のことを懐かしげに思い出すことだ。……僕たちは知っている。しばしば人びとは何かを欲しがるけれど、じつは本気じゃないことを。君たちが欲しがっていることを本当に手に入れることを恐れないで欲しい。」

スラヴォイ・ジジェク『Don't fail in love with yourselves』
『共産主義の理念』(水声社、2012)「訳者「あとがき」」より
posted by 桜井夕也 at 23:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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